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山口家庭裁判所 昭和60年(少ハ)3号 決定 1986年7月03日

少年 T・S子(昭42.8.9生)

主文

本件申請を却下する。

理由

本件申請の理由の要旨は、少年は昭和60年3月8日山口家庭裁判所において言渡された中等少年院送致決定(一般短期)により、貴船原少女苑に収容され、同年8月22日同少女苑を仮退院したものであるが、

1  仮退院後、勤めていた○○美容院を同年10月上旬無断退職し、その後定職に就かず、徒食生活を続け、同月7日ごろから同月14日ごろまで、同月18日ごろから12月7日ごろまで及び同月10日から同月13日ごろまでの間、A他数名の男又は女友達宅を転々と無断外泊して歩き、B他1名とも肉体関係をもち、

2  同年10月18日、先に美容学校入学金として祖父母が納付していた金9万円が現金書留郵便で返送されてきたのを祖父母不在を奇貨として受け取り、これを無断で持ち出し、更に同月29日ごろ、祖父所有の旧紙へい(1万6000円位)を無断で持ち出し、それぞれ消費した、

ものである。

3  上記少年の行為は遵守事項に違反しており、保護観察官や保護司の助言、指導にもかかわらず、改善更生のきざしが認められず、保護者の正当な監督に服さず、その性格、環境に照らし、将来更に非行に走り、又は刑罰法令に触れる行為を惹起する危険性が強く、もはや社会内処遇をもつては少年の改善更生を期することは極めて困難であると認め、少年を少年院に戻して収容し、さらに矯正教育を加えるのが相当であるというにある。

4  よつて案ずるに申請記録、当裁判所調査官の調査報告書、少年及び保護者(祖母)C子の陳述によれば、少年の仮退院後の経過は概ね申請理由のとおりであつて、少年が仮退院に際して定められた遵守事項に違反していることを認めることができる。そこで少年を少年院に戻して収容することを要するか否かにつき検討する。

5  当裁判所が昭和61年1月20日少年を福岡県下のうなぎ料理屋経営D方に補導委託して試験観察に付しその後の経過を観たところ、少年は、補導委託先で負傷した左足捻挫の自宅療養の必要性と委託先への不適応から、同年2月27日祖父母の許へ帰住し、在宅試験観察に切替えられ、以来当庁調査官によつて少年と祖父母らとの定期的な出頭面接を重ねる等の経過観察が続けられた。

その過程において、少年は恋人との喧嘩別れで情緒不安定になつたり、定職に就かせようとする祖母の圧力から不承々々喫茶店の仕事に就こうとするが、その直前になると逃避的になつて家出、家財持出し、ひいては軽微な万引をするなど、一時状況が悪化したが、調査官の根気強い指導と経過観察により、少年自ら裁判所に連絡をとり祖父母の許に戻るようになり同年5月24日からキャバレー「○○」に就職し、それ以来、不良交友を断ち真面目に勤務しており、これまで家に迷惑をかけた分を償うといつて自発的に収入の一部を家計に入れ、また自動車運転免許取得の目標をもつて貯金を始めるようになつた。そういう少年の姿勢に祖父母も暖かく見守つていこうと考えるようになつてきて、祖父母と少年との間の緊張や葛藤も緩和し、少年も家庭の居心地がよくなり落ち着くようになつた。また少年自身、年令的な成熟もあつて自分も周囲の同年代の他の人々と同様、まじめに仕事をし、19歳の誕生日、或はまた成人式、20歳の誕生日等を少年院ではなく、自宅で迎えたいという気持ちを抱き、少年自身に自分の立場を考え健全な生活をしようとの決意が窺われ、従前の自己の生活態度を批判的に見ることができるようにまでなつている。

しかし現在の仕事は客観的にはやや問題なきにしもあらずであるが祖父母も少年が真面目に働き、家に落ち着いたことを喜び特に祖父は雇主とも共通の趣味(盆栽)を通じて懇意にし、少年の生活面の監督も依頼し、連絡をとりあつている。

しかし乍ら、少年にはなお放恣な面が残つていて必ずしも楽観できない部分もなくはないが保護司とも接触して読書指導を受けたり、保護観察所にも積極的に出頭して保護観察官の面接指導を受けるなど一応保護観察の枠組内におさまつてきている現状にある。

斯様に紆余曲折はあつたものの、試験観察の結果、少年の生活態度は徐々に安定化の兆しを見せ、現時点では社会内処遇を続けることが適当な方法であり、戻し収容の必要はないものと思料する。

よつて本件申請は理由がないものとして却下することとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 大西リヨ子)

〔参考〕 戻し収容申請書

様式第229号

戻し収容申請書

昭和60年12月25日

山口家庭裁判所 支部 殿

中国地方更生保護委員会

下記の者は、少年院を仮退院後山口保護観察所において保護観察中の者であるが、少年院に戻して収容すべきものと認められるので、犯罪者予防更生法第43条第1項・第2項の規定により申請する。

氏名

年齢

T・S子

昭和42年8月9日生

本籍

山口県防府市大宇○○××番地

住居

本籍に同じ

(現在地 山口少年鑑別所留置中)

保護者

氏名

年齢

T・T

明・<大>・昭7年10月1日生

住居

本人本籍に同じ

本人の職業

無職

保護者の職業

農業

決定裁判所

山口家庭裁判所 支部

決定の日

昭和60年3月8日

仮退院許可委員会

中国地方更生保護委員会

許可決定の日

昭和60年7月30日

仮退院施設

貴船原少女苑

仮退院の日

昭和60年8月22日

保護観察の経過及び成績の推移

別紙1

申請の理由

別紙2

必要とする収容間期

参考事項

(添付書類)

質問調書(甲)1通(編略)

〃(乙)1通(編略)

引致状謄本1通(編略)

注意 本人が施設に収容されているときは、その施設名を住居欄に付記すること。

(別紙1)

保護観察の経過及び成績の推移

本人は、昭和60年8月22日、貴船原少女苑を仮退院し、同日山口保護観察所に出頭し、同庁の保護観察下に入った。

同月27日ごろ、祖父の紹介により防府市内の○○美容院に美容師見習として就職したが、9月中旬ごろ胃病を患ってからは就労意欲を失い、10月1日ごろ出勤後「病院に行く。」と勤め先を出かけたまま勤め先に戻らず、少年院入院前に知り合った女友達E予を訪ね、同人の女友達とともに岡山に赴き無断外泊した。

同月3日ごろから4日間出勤したが、同月7日ごろ、仮退院後街で知り合ったAを訪ね、以後帰宅せず、更に前記美容院を無断で退職し、同人のアパートに同月14日まで無断外泊していた。

同月15日、山口保護観察所は、本人(祖父母同伴)が出頭したので、主任官において早期就職及び無断外泊の禁止について指導した。

同月18日先に理美容学校の入学金として祖父母が納付した9万円が、現金書留郵便で返金されてきた際、祖父母不在を奇貨に郵便配達員から受け取り、それを持ち出し、前記Aのアパートに赴き、無断外泊を続けていた。

同月29日ごろ、一時帰宅し、祖父所有の旧札(16、000円位)を無断で持ち出した。

同月31日、祖母C子が山口保護観察所に任意出頭したため、質問調書(乙)を作成した。

同月18日ごろから11月9日ごろまでの間、B宅に2泊し、同人と肉体関係をもった。

11月10日ごろから、12月8日ごろまでの間、F子ほか2名の男又は女友達宅を転々と泊り歩き、無断外泊した。

12月10日本人が山口保護観察所に出頭したので、質問調書を徴していた途中、本人が「友人との約束を断ってくる。」と述べたので、一時外出を許したところ、そのまま戻らず、パーソナル無線「○○連合会○○会」会長Gと落ち合い、同人宅に2日間無断外泊し、肉体関係をもった。

同月12日山口保護観察所は、出頭日を同月16日と定めて本人あて呼出状を送付した。

本人は、14日に帰宅し呼出状をみていたにもかかわらず、何んらの連絡もとらず、山口保護観察所に出頭しなかった。

上記のとおり、仮退院後1月10日余り稼働したが、以後家出無断外泊を繰り返し、不純異性交遊など放恣的な生活を送り、更に祖父母の金員を持ち出し費消するなど、保護観察の成績は不良裡に経過した。

このため、本人は、12月19日山口保護観察所長によって引致され、同日当委員会第2部において戻し収容の申請をするための審理を開始する旨の決定がなされ、即日山口少年鑑別所に留置され、現在、同鑑別所に収容されている。

(別紙2)

申請の理由

本人は、犯罪者予防更生法第34条第2項に規定された遵守事項(以下「一般遵守事項」という。)及び同法第31条第3項の規定によって中国地方更生保護委員会第2部が定めた遵守すべき特別の事項(以下「特別遵守事項」という。)の遵守を誓約して、昭和60年8月22日貴船原少女苑を仮退院し、現在山口保護観察所の保護観察下にあるが、昭和60年12月19日付け、同所長から戻し収容の申出がなされたので審理するに、

本人は、

1 仮退院後勤めていた○○美容院を10月上旬無断退職した後、定職に就かず、徒食生活を続け、昭和60年10月7日ごろから同月14日ごろまで、同月18日ごろから12月7日ごろまで及び12月10日から同月13日ごろまでの間、Aを始め数名の男又は女友達宅を転々と無断で泊り歩き、Bほか1名と肉体関係をもち、(一般遵守事項第1号「一定の住居に居住し、正業に従事すること。」後段及び特別遵守事項第4号「異性と不純な交際をしないこと。」に違反)

2 昭和60年10月18日先に理美容学校入学金として祖父母が納付した9万円が、現金書留郵便で返金されてきたのを受け取り、これを無断で持ち出し、更に同月29日ごろ、祖父所有の旧札(1万6千円位)を無断で持ち出し、それぞれ費消し(一般遵守事項第2号「善行を保持すること。」に違反)

たものである。

本人は、上記のとおり遵守事項違反があり、かつ保護観察官や保護司の助言、指導を受けたにもかかわらず、改善更生のきざしは認められず、保護者の正当な監督に服さず、その性格、環境に照し、将来更に非行に走り、又は刑罰法令に触れる行為をひき起す危険性が強く、最早、社会内処遇をもっては、本人の改善更生を期することは極めて困難であると認め、戻し収容を相当と認める。

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